夢の終わりに

第 20 話


戻ってきたスザクは、コートも帽子も脱いでおり、新しいバックパックを担いでいた。先ほど来ていたコート類は恐らくその中なのだろう。

「あれ?ルルーシュは?」

開口一番それなのだから、笑うしかない。あの頃も、生徒会室に入るなり悪友殿の姿を探していた。変わらないなぁと思った瞬間、俺は我に返った。違う違う。あいつらはとっくに土の下。だからこれを、この感情を他人に向けるのは失礼にもほどがある。
でもまあ、あれだ。こいつの気持ちはわかる。あれだけ不穏な空気をビシビシと感じたわけだし、今もその後始末をしてきたんだから。俺だって部屋に入ってあいつの姿がなければまず無事なのかを確認するだろう。

「今出る」

浴室から声が聞こえて来て、まだ入っている事にスザクは驚いた顔をし、確認のためかこちらを見た。俺は半分呆れたような顔で肩を落としてみせた。

「言っただろ、長風呂だって」
「聞いてたけど、長すぎない?のぼせてるんじゃ・・・」

迷うことなくドアノブに手を伸ばしたので、俺は慌てて止めた。

「おいおいスザク。今から見に行っても遅いって。出てくるまで待とうぜ?」

それに、コートと帽子の事があるから、居ない方がいいだろう?とバックパックを指さすと、それもそうかという顔をした。ルルーシュが出てくる前にと、手早く先ほどのコートを出しハンガーに掛ける。スザクのジーンズに返り血らしい物が見えるから心配になったが、どうやらコートを脱いで喧嘩をしたらしく、コートと帽子には皺も汚れも無かった。

「なになに、新しいバック買ったのかよ」
「うん、今のはだいぶ汚れたからついでにね。リヴァルも変えない?」

そう言ってスザクはバックパックから、はい、と出してよこした。

「なになに?俺にも買ってきてくれたわけ?」
「今使ってるのと同じメーカーのだから、使い勝手は変わらないと思うよ?」

言われてみれば確かに俺の相棒と同じメーカー。こいつ、意外とそういう所チェックしてるんだなと感心する。

「いくらしたんだ?」

俺が財布を取り出すと、スザクは慌てて首を振った。

「いいよ、プレゼントだから。勝手に買ってきたのは僕なんだし、お金はもらえないよ。使ってくれたらうれしいな」
「そういうわけにもいかないだろ?これけっこうするぜ?」
「いいんだよ、僕結構稼いでるから」

おいおい、それってまさか今の喧嘩で?と眉を寄せると、スザクは違うよと笑った。

「僕は体を動かすのが好きだから、日雇いでも結構稼げるんだよ」

真面目で丁寧な仕事ぶりに、現場の人たちに引きとめられる事も多く、結果周りよりもいい賃金で働けたりもする。元々無駄遣いもしないため、こんな旅をしているのに結構な金額を持ちあるいるという。
俺はと言えば肉体労働は不得意ではないが、得意と言えるほどでもなく、とはいえ流れ者にできる仕事など肉体労働の日雇い仕事ばかりだから、ちょっとでも割のいい現場があれば積極的に働くようにしていた。そういう場所には少し長めに住み着いて、無茶なペースでどんどん仕事をしては不死身の回復力で持ち直し、ある程度たまったら移動する。
こんな体だから銀行にお金を預けておく事も出来ず、あまり持ち歩いたら強盗に奪われる可能性もあるから、カツカツではないけれど余裕があるとも言えない感じの懐具合だ。

「んじゃ、遠慮なくもらおうかな。代わりに今度何かおごるな」
「うん、楽しみにしてるよ」

そんな話をしていると、ようやくルルーシュが出てきた。

「すまない、思った以上に長くなった」
「長すぎだろ?1時間どころじゃないもんな?」
「大丈夫かいルルーシュ?目眩とかしない?今飲み物持ってくるから、ベッドで休んでて」

即座に駆け寄ったスザクは、心配そうにルルーシュの顔色を見て、あれやこれや世話を焼き始めた。ほんと、過保護だよなと思う。とはいえ、渡されたペットボトルの水を煽る姿から、よほど喉が渇いていた事は伺える。

「次はスザクだろ?早く入ったらどうだ?」
「そうだね、すぐ上がってくるから。具合悪くなったら呼んでね?」

こりゃカラスの行水かな?と思うぐらい慌てて風呂に向かうスザクに、ルルーシュは慌てて声をかけた。

「おまえな、何のために風呂を入れたと思ってるんだ。ゆっくり入って体の垢を落として来い!」

元々、バックパッカー二人からちょっと匂うという話から風呂に入っているのに、カラスの行水では何も意味は無い。自分たちは気にならないが、それは長い間旅をしているせいでちょっと匂いに鈍感になっているからかも。そんな匂いにお坊ちゃんなルルーシュには耐えれないかもしれないし、この部屋の主はそもそもルルーシュだからこの命令は絶対服従だ。

「スザク、ここ俺に任せてゆっくり入って来い。ルルーシュ陛下のご命令だぞ」

もう二人が忘れていそうな設定を引っ張り出して言えば、ルルーシュはにやりと笑った。

「その通り、この私の命令に逆らうつもりか我が騎士スザク。お前はゆっくりと風呂に入り、旅の汚れを落としてこい!」

一瞬で空気が変わったのがわかる。
うわっうわっ、やべーっ悪逆皇帝時代のあいつそのものじゃん。うわーっすげー!ベッドを椅子代わりに座り、バスローブ着てるだけなのに気品というかなんかこうなんかすごい雰囲気というか。やべっ全身鳥肌ったった!!

「イエス、ユア・マジェスティ」

間髪いれずに返された返礼。
うわ、こっちも様になってるから悔しい。
なんだよなんだよ、美形二人は何をしても形になるからいいよな!俺がやったら噴出されて笑われて終わりなのにな!
スザクが着替えを手に浴室に消えると、ルルーシュは洗濯をしたものを袋から引っ張り出し、不愉快気に眉を寄せた。

「・・・皺になってる」
「・・・まあ、そうだろうな」

今の今までぐっちゃりと袋に詰め込まれていたのだ。これで綺麗な状態だったら凄い。特にシャツ類。せめてここに戻ってすぐにたためばもう少しましだっただろうが、スザクが行動するためには仕方のない犠牲だったのだ。

「まあ言っても仕方がないか。これならアイロンをかければ問題ないだろう」
「ルームサービスで借りるか?」
「いや、持ってきている」
「何?お前アイロン持ち歩いてるわけ?」
「皺だらけの服を着て歩くわけにはいかないし、ホテルのアイロンは好きじゃない」

俺たちのように皺が出にくい服を着る、という選択肢は無いらしい。そう言えばあのルルーシュもTシャツやパーカーを着ているイメージは無いことに気づく。手早くアイロンをかけるもの、かけないものに分けていく中、思わず目に入ったものに突っ込みを入れたくなった。いや、入れたら間違いなくキレられる気がしたし、人の洗濯ものを覗き見る趣味があるのかとか言われそうだから言わないけど。
・・・なあルルーシュ。その下着は色々言いたい事があるぞ?
ブリーフじゃないだけましだけど、まさかのビキニって。いや、何というか美人にビキニって。いやもう、狙ってるのか?狙ってるよね?それとも狙ってないでそれチョイスするんですかルルーシュさん?もうなんか怖い。こんなん着けてるの見たら狼が量産されるんじゃねーの?
ルルーシュみたいな美人は異性にも同性にも狙われる事は短時間で嫌なぐらい理解してしまい、そんな思考が当たり前に浮かんだ自分に苦笑した。あー、あの頃のルルーシュよく無事だったよなぁ。108人の女子とデートしたという伝説を残したりしてたけど、ここまでの危うさは感じなかったもんな。やっぱりナナちゃんとロロがいた事も大きいのかな。護らなければいけない家族のために警戒してた感じあるもんな。だけど、このルルーシュにはそれがない。
そんな事を考えている間に下着の類はスーツケースの中に収まり、シャツを手際良くアイロンをかけ始めた。まるで魔法のようにシャツの皺がみるみる無くなっていく。こういうのを見ていると俺もスチームアイロン欲しいなと思うが、俺の服には必要がないし重くなるから買う事は無いだろう。
次々とアイロンをかけていくと、浴室の扉が開いた。ああ、そういえばあいつは風呂に入ってたんだよなと思いだす。忘れたのはわざとじゃないぞ?ルルーシュのビキニのせいで記憶が飛んだけだ。
そう自分に言い訳をした。

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